大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和56年(ワ)8583号 判決 1982年12月24日

原告

大阪魚市場株式会社

右代表者

膳隆造

右訴訟代理人

竹西輝雄

岡本宏

被告

丸泉水産株式会社

右代表者

小杉隆夫

右訴訟代理人

濱秀和

金丸精孝

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実《省略》

理由

一請求原因1(冷凍アラスカ紅鮭の売買)、同2(被告会社の連帯保証)及び同3の(一)、(二)(一部弁済)の事実は、<証拠>を総合すれば、これを認めることができる。

二そこで、被告会社の本件保証が商法二六五条にいう取引にあたり無効となるかどうかについて判断する。

1  <証拠>を総合すれば、

(一)  昭和五六年二月当時、島崎清は被告会社と訴外会社両社の代表取締役を、島崎繁蔵は被告会社の取締役と訴外会社の代表取締役をそれぞれ兼ねていたこと及び原告は、魚介類の取引を業とする会社であるが、右両名の右兼務の事実を知つていたこと

(二)  訴外会社の代表取締役島崎清は、原告から買い受けた本件冷凍アラスカ紅鮭の売買代金(五五四三万六九二八円)全額を昭和五六年二月一二日の支払期日に弁済することができなかつたため、同月上旬、原告に対し、右代金の分割弁済方を申し入れたところ、原告は、これに応ずる替わりに、島崎清に対し、物的担保の提供と島崎個人と被告会社が訴外会社の右買掛金債務について連帯保証するよう求めたこと、原告は、その際、島崎清に対し、被告会社の連帯保証について被告会社の取締役会の承認を受けたうえ、右承認決議に関する取締役会の議事録の写を交付するよう要求したこと

(三)  被告会社は、昭和五六年二月九日、被告会社本社事務所において臨時取締役会を開催し、三名の取締役のうち島崎清及び島崎繁蔵の二名が出席して両名一致の意見で被告会社が原告に対し訴外会社の原告に対する買掛金債務について連帯保証することを承認する決議をし、同日右承認決議の結果を記載した臨時取締役会議事録を作成したこと

(四)  島崎清は、昭和五六年二月一〇日、原告との間で被告会社を代表して訴外会社の原告に対する本件買掛金債務について連帯保証契約を締結し、その際原告に対し、右臨時取締役会議事録の写(甲第三号証)を交付したこと及び原告は、同月一二日右交付を受けた議事録の写について公証人の確定日附を受けたこと

(五)  被告会社は、東京都中央卸売市場仲卸業者店舗(いわゆる鑑札)二店舗を有し、島崎清は、被告会社の全株式(一万株)を保有し被告会社を支配していたところ、島崎清は、昭和五二年三月、訴外本間一との間で右鑑札二枚を売り渡す契約を結び、同人に対し被告会社の株式五〇〇〇株を譲渡しその株券を交付して同人から金四五〇〇万円を受領したこと、本間は、同年三月一五日から昭和五五年四月三〇日まで被告会社の取締役をしていたこと、島崎清は、昭和五六年三月、本間が代表取締役をしている株式会社布長商店に対し、被告会社の残株式五〇〇〇株を譲渡しその株券を交付して同社から約九六〇〇万円を受領したこと及び同年三月二一日、島崎清は、被告会社の代表取締役を退任し、かつ取締役を辞任し、島崎繁蔵は、ほか一名と共に被告会社の取締役を辞任し、同日、本間の親族である小杉隆夫ほか二名が被告会社の取締役に就任し、以降本間が被告会社を実質的に支配していること

以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

2 右認定の事実によれば、被告会社の本件保証は、被告会社と訴外会社両社の代表取締役を兼ねていた島崎清が、訴外会社の原告に対する買掛金債務について被告会社を代表してなした保証であるから、訴外会社の利益にして被告会社に不利益を及ぼす行為であり、商法二六五条にいう取締役が第三者のためにする取引にあたるというべきである(最高裁判所昭和四五年四月二三日第一小法廷判決、民集第二四巻第四号三六四頁参照)。

そうすると、被告会社が本件保証をするについては、取締役会の承認を受けることが必要である。

3  そこで、被告会社が本件保証をするについて取締役会の承認を受けたかどうかについて検討すると、前認定のとおり、被告会社の臨時取締役会は、昭和五六年二月九日開催され、島崎清及び島崎繁蔵の二名の取締役が出席して右両名一致の意見で本件保証を承認する決議をしたが、右両名は、いずれも本件保証によつて利益を受ける訴外会社の代表取締役であるから、右承認決議について特別の利害関係を有しており、取締役会において議決権を行使することができないものであつたというべきである。

そうすると、特別利害関係人である右両名が議決権を行使した右取締役会の承認決議は、決議の方法に重大な瑕疵があり無効といわなければならない。

したがつて、被告会社は、本件保証をするについて取締役会の有効な承認を受けなかつたことになる。

4 ところで、二つの会社の代表取締役を兼ねている者か、一方の会社の債務についてその債権者である第三者との間で他方の会社を代表してなした保証契約については、右第三者が取締役会の承認を受けていないことについて悪意または重大な過失があるときに限り、保証をした会社は、右第三者に対しその無効を主張することができるものと解するのが相当である。

これを本件についてみると、原告は、本件保証当時、島崎清が被告会社と訴外会社の代表取締役を、島崎繁蔵が被告会社の取締役と訴外会社の代表取締役をそれぞれ兼務していることを知つていたこと及び原告は、島崎清に対し被告会社の本件保証を求めた際、同人に対し被告会社の取締役会の承認を受け、右承認決議に関する取締役会の議事録の写を交付するよう要求し、かつ同人から交付を受けた右議事録の写(甲第三号証)に公証人の確定日附を受けたことは、前認定のとおりであり、右の事実によれば、原告は被告会社の本件保証が商法二六五条にいう取引にあたることは知つていたことを推認することができ、<反証排斥略>。そうだとすれば、原告は、単に島崎清から被告会社の取締役会が本件保証を承認した旨の記載のある臨時取締役会議事録の写(甲第三号証)を徴するだけでは足りず、同人から交付を受けた右臨時取締役会議事録の写を検討して右取締役会の承認決議が適法かつ有効になされたかどうかを確認すべきであり、また、原告は、魚介類の取引に精通した株式会社であるから、右議事録の内容を確認すれば、本件保証を承認する決議をした被告会社の取締役会に出席した取締役が島崎清と島崎繁蔵の二名であり、右両名がいずれも本件保証によつて利益を受ける訴外会社の代表取締役であつて右承認決議について特別の利害関係を有し、右取締役会において議決権を行使することができないものであつたこと、したがつて、右両名が加わつてした右承認決議が無効であり、本件保証について被告会社の取締役会の有効な承認を受けていないことを知ることができたものというべきである。

そうすると、原告は、被告会社の本件保証について取締役会の承認を受けていないことを知つていたかまたは仮にこれを知らなかつたとしても、原告は、被告会社の右臨時取締役会議事録の写の内容を確認すれば、容易に取締役会の有効な承認がないことを知りえたにもかかわらず、漫然と有効な承認を受けたものと軽信したものであるから、これを知らなかつたことについて重大な過失があるといわなければならない。

したがつて、被告の抗弁は理由があり、被告は、原告に対して本件保証が無効であることを主張することができる。

三よつて、本訴請求は、理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(小野剛)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例